水曜夜の高田馬場。この場所に自慢のデッキを持った12人のトレーナーが集った。

 

「最も強く」、そして「最も魅力的な」デッキを決める戦いが幕を開けた。

 

 

 

電撃特攻弾アローニャの衝撃

 

見慣れないHRのカード。背中に仰々しい電磁石を備え、逞しい髭を蓄えたポケモン。がんせきポケモン《アローラゴローニャGX》である。

 

このポケモン、ワザを使用するための要求エネルギーは重くまともに動くこともままならない上に

現環境ではルガルガンGXやマッシブーンGX等、闘ポケモン隆盛の煽りを受け、自慢のHP250という耐久を活かせない哀しきポケモンである……。

……というのがこのイベントに出る前の我々の評価であった。

しかしこの日、我々の認識は大きく覆されることとなった。

まずこのポケモンは、動いた時の制圧力が半端ではない。「ちょうでんじタックル」はGXワザにも引けを取らない200という破壊力でほぼすべてのポケモンを粉々に粉砕する。そして自身への反動はプロテクトキューブの力で無効化することができる。

そして本来のGXワザ「ヘビーロックGX」は相手の行動を全て封殺する。その隙こそが、うねりの大海での態勢の立て直しと、二機目の重戦車を準備することを可能にする。

この日は苦手な闘タイプ主体のデッキと2戦しながらも3つの勝ち星を挙げ、我々のこのポケモンに対する認識を大きく上書きした。

まさにこのヤナトイナイトの夜空で最も輝く花火のようなポケモンであった。

このように、トーナメントでポイントを取れるほどではないが、一夜の英雄となれるカードは、まだまだ数多く存在するのだろう。

燃える隼、惑わす妖狐。それぞれが守る二つの火山

  

この日、別々の卓で同じポケモンが登場する奇跡が起きた。そのポケモンとは、ふんかポケモンの《バクフーン》である。

このポケモンの持つ「だいふんか」というワザは、自身の山札を5枚焼き尽くし、その中の炎エネルギーの数に応じて相手にダメージを与える豪快なワザである。

成功すれば1つの炎エネルギーで相手を1撃で焼却し切るほどのダメージが出るが、自身の山札を削るリスク、そして不発に終わるリスクも抱えた、ハイリスクハイリターンなワザなのである。

——ある男は、こう考えた。

「山から必要なポケモンと道具だけ引き抜き、山に残るのは炎のエネルギーだけにしてしまえばよい。」

それを可能にするのが、燃える隼《ファイアロー》である。

最終進化ながら対戦開始と同時に戦うことを許されたこのポケモンは、相手の準備が整うのを待たずに強襲し、即座にバクフーンの噴火への準備を整える。

隼が羽を休める時、火山は一切の不純物なく燃え上がる。

——また、もう一人の男はこう考えた。

「一度全てを燃やし尽くし、そのあとで純粋な燃料だけを山に還せばよい。」

  

この男は山から炎がなくなることを厭わない。明るく照らす松明、そして妖狐への称賛のために、手にした炎をすべて燃やし尽くす。数ターン後には噴火の準備が整ったバクフーンと、空っぽになった山だけが残る。あとは燃料だけを山に還せば不純物の一切ない純粋な活火山の完成である。

このように、同じポケモンの使い手でもバトルの魅せ方、ワザの使い方は千差万別である。

デッキ構築とは、使い手のこだわりやプレイスタイルを映し出す鏡といっても過言ではない。

メレメレ島の人々と守り神、そして超獣

戦場を高速で疾走する、細くしなやかで美しい生物は、《フェローチェGX》

アローラ地方のメレメレ島で発見されたポケモン…否。ポケモンであるかすら不明の未知なる生物、ウルトラビーストである。

その脇を固めるは、コソクムシから進化するグソクムシャGX、ピカチュウがアローラ地方の気候によって進化したアローラライチュウ。黄色い羽根のオドリドリ。そして島の守り神、カプ・コケコ。

そう、このデッキは全てのポケモンがメレメレ島に生息するポケモンで組まれたデッキなのだ。

驚くべきは、そのこだわりはポケモンだけに留まらないことだ。

ハウ、リーリエ、ククイ博士、キャプテンのイリマ。しまキングのハラ。そしてグズマに至るまで、サポートも全てメレメレ島にまつわる人物でデッキが組まれている。

ポケモンカードは単なる数字のやりとりをするだけのゲームではない。

1枚1枚のカードに描かれたポケモンやトレーナーには、それぞれの背景があり、それぞれの生き様がある。ポケモン世界で生きているキャラクターなのである。

おそらく多くのプレイヤーも、はじめてポケモンカードに触れた時、このようなポケモン世界から飛び出したようなデッキを構想したのではないだろうか。

このデッキは我々が忘れかけていた大切なものを思い出させてくれた。

まとめ

 

「つよい ポケモン よわい ポケモン そんなの ひとのかって」

これはとある四天王が放ったセリフだ。

この言葉から読み取れることは二つあると思う。

一つは、この一夜に輝いた12個のデッキたちのように、使い手の腕次第でどんなポケモンも活躍させることができるということである。

そしてもう一つ、強い弱いよりも大切なことがあるという意味にも解釈できないだろうか。

ポケモンカードの本質は、カードを通じた相互の交流なのである。

その大きな目的が達成されるのならば、つよいデッキもよわいデッキも関係ない。自分らしいこだわりを詰め込んだデッキで戦う事こそが、対戦の本質である。

そう言っているようにも聞こえないだろうか。

この日『ヤナトイナイト』に集まった面々は皆、自身のこだわりをぶつけ、相手のこだわりを感じることで、本来の対戦の意味を知ることができただろう。

つよいポケモン、よわいポケモン、そんなことを考えるのも忘れ、参加者たちは笑顔で帰っていった。