ひらじです。
たいマックス以外の記事を久々に書くよ

突然ですが

皆さん、機会費用(機会コスト)という言葉をご存知でしょうか。
元々は経済学用語らしく、その考え方が(主に海外MTG文献で)カードゲームへ輸入されて使用されているようです。
英語だとopportunity cost

僕も最近まで知らなかった概念なのですが、デッキ構築を考える上でかなり役立つ考え方だなぁと(最近デッキ組んでてずっと)感じているので今回僕なりにまとめてみます。
(日本語的には「機会費用」が正しそうですが、カードゲーム的にはコストって単語の方が馴染みそうなので以下「機会コスト」に統一します)

機会コストとは

以下Wikipedia

機会費用(きかいひよう、英: opportunity cost)とは、時間の使用・消費の有益性・効率性にまつわる経済学上の概念であり、ある経済行為を選択することによって失われる,他の経済活動の機会のうちの最大収益をさす経済学上の概念。最大利益を生む選択肢以外を選択する場合、その本来あり得た利益差の分を取り損ねていることになるので、その潜在的な損失分を他の選択肢を選ぶ上での費用(cost)と表現している。

流石に長いですね。
もう少し短くまとめると
ある選択をした時、『もし別の(ベストな)選択をしていれば得られるはずだった利益』がその選択の機会コストです
得られていたはずの利益をコストとして支払って選択をしている、というようなイメージですね。

さて、この概念をカードゲームに落とし込むとどうなるのでしょうか。

ポケカは60枚のカードでデッキを組むゲーム

です。
60枚ちょうどでデッキを組まなければならないというルールである以上、あるカードAをデッキに入れるには、別のカードBをデッキから抜く必要があります。
つまり、「カードBを抜く」という”コスト”を支払ってカードAをデッキに入れている事になります。
ここで支払っているコストこそが機会コストです。
もし払ったコストに見合うパフォーマンスをカードAが発揮しない場合、それはカードAがカードBより(そのデッキにとって)弱いという事であり、当然ながらデッキも弱くなります。

ポケカは引いたカードで勝負するゲーム

対戦中に踏み込んだ視点で見てみましょう。
ポケカも他の大抵のカードゲームと同様、手札という
「ランダマイズされた山札からドローした、限られたリソース」
で戦うゲームです。
ポケカは他カードゲームに比べてドローが強い・サーチが強いとはよく言われますが、それでもこの根本は同じなのです。

ともすれば、ポケカも他のカードゲーム同様、手札に引き込んだ有効牌(その状況で仕事を果たせるカード)の数が勝負を分けます。

先ほどの例での「デッキからカードBを抜きカードAを入れる」という行為は、「対戦中にBを引かずAを引く事を選択した」に他ならないないのです。
そして、カードAを引いた時にカードBよりも仕事をしないのであれば、勝利は一歩遠ざかるのです。

「カードAがカードBより弱い(”Bを抜く”という機会コストに見合わない)」とは、しばしば「手札に来たが腐っている」という現象として表れます。

MTGには(機会コスト論の文脈において)「ドローしたカードが使えない事は、マリガンした事と同じ」という表現が見られます。
マリガンとは初期手札の引き直しの事で、ポケカと違いプレイヤーの任意で行えるのですが、行うたびに手札が1枚ずつ減っていきます。
つまり「(有効に)使えないカードを採用する事は、自分で手札を減らしているようなもんだ」という戒めの言葉です。

ポケカ的に言い換えるのは少し難しいですが、
「7枚の手札のうち3枚が腐っているのであれば、それはマリィを使われたのと同じ」
といったところでしょうか。

ドロサポで見る具体例

言葉だけではイメージしにくいので少し具体例を挙げてみましょう。

ツツジというサポートがあります。

相手のサイドが3枚以下という使用条件がある代わり、使えば相手の手札が2枚、自分の手札が6枚になるという強力な妨害兼ドロー効果を持ったサポートです。
採用を検討できる程度には強力そうなサポートですね。

先に挙げた通り、デッキに何かカードを入れるには別の何かを抜かなければなりません。
ツツジの採用にあたり、「デッキに3〜4枚入っているマリィを1枚抜いてツツジに差し替えてみる」というのは、まぁまぁ実行しそうな判断です。

このデッキ調整を実行した場合、以下のような状況を確率的に発生させます。
「ゲーム開始時の手札が、スタート可能なタネポケモン、数枚のエネルギーやグッズ、そしてサポートは『ツツジ』だけ」

お祈りしながらトップドローするしかなくなるような手札ですね。

ここで手札で腐っているツツジは、デッキ調整前であればマリィだったわけです。
これは、「”マリィを抜く”という機会コストに対して、ツツジがそれに見合うパフォーマンスを発揮できなかった」という1場面です

上記はあくまで1場面であり、逆に使用条件が満たされている場面で手札に来たならば、ツツジは間違いなくマリィよりも高いパフォーマンスを発揮したでしょう。
それらあらゆる場面を考慮して、「ツツジは、”マリィを抜く”という機会コストを払うのに見合うパフォーマンスを発揮するか」を考える必要があります。

コスパ

デッキにカードを入れる時には、必ずこの「機会コスト対パフォーマンス」の問題が発生するのです。
パフォーマンスが機会コストを上回る場合にのみ、そのカードの採用によりデッキが強化されます。

機会コスト < パフォーマンス となるのは、機会コストが低いか、パフォーマンスが高い場合です。

先ほどのマリィ→ツツジの例で説明するならば、
マリィを抜く機会コストが低い:デッキの回転がマリィに依存していない。
ツツジ採用時のパフォーマンスが高い:ツツジが使える場面(使いたい場面)でツツジを手札に持ってくる手段がある。
といった感じです。

機会コストが膨れ上がるなら不採用

ここで気を付けなければならないのは、機会コストを低く/パフォーマンスを高くする為に何か別のカードを入れようとするならば、当然代わりに何かを抜かなければならず、そこには新たな機会コストが発生するという事です。
そしてその発生した機会コストそれぞれに対して、「投入するカードのパフォーマンスはその機会コストに勝るのか」という判断をする必要があります。
大抵の場合、何か一枚のカード(ここで言うツツジ)を活かす為だけにデッキに入れようとするカードが、元々デッキに入っていたカードよりも優れるという事は稀です。

採用可能なカードとは、他の調整をせずともそのデッキにとって低機会コスト/高パフォーマンスであるものに限られるのです。

ツツジであれば、1例として『アルセウスVSTAR+うらこうさくインテレオン』のデッキに1枚採用されていたりするのは、機会コスト面/パフォーマンス面共に合理的な採用である事が分かります。

ポケカってそもそも…

高機会コスト/低パフォーマンスなカードだらけですよねという話。
例えば進化ポケモン。
まずデッキ構築時点で「進化前後のポケモンを入れなければならない(=その分他のカードを抜かなければならない)」という機会コストが掛かっています。
そしてパフォーマンス面。進化ポケモンは「前の番から進化前のポケモンが場にいる」という条件が達成できて初めてプレイアブルなカードになります。
その条件が達成できていない状態で手札に来ても使用自体が不可能なわけで、「有効牌かどうか」という土俵にすら上がれていません。
さらに場に出れたとしても、(出すだけで仕事する特性持ちでもない限り)エネルギーを付けなければまだ仕事をしません。

このエネルギーというカードもなかなか。
まずエネルギーを付けたいポケモンが先に場に出ていなければ、当然付ける事ができません。
進化ポケモンと同様、使用可否が盤面に左右されてしまうカードです。
しかも1ターンに1枚しか手札から付けられないという制約上、単純に考えて手札に2枚以上あればそれらは腐っている事になります。
たいへんパフォーマンスが悪い
にも関わらず、安定して付ける(≒安定して引く)にはそれなりの枚数は採用せねばならず、そのために機会コストを払わされます。

この「ポケモン」と「エネルギー」という、ゲームの根幹であるカードのコスパが酷く悪いのを補うために、ポケカのグッズやサポートは他TCGに比べ強力に作られているわけですね。

博士の研究に学ぶ機会コスト論

そんな強力に作られているグッズ・サポートの中で、大抵のデッキに4枚採用される博士の研究について。

まれによくある話として
「博士の研究は手札を捨ててしまうのが弱い。大事なカードを捨ててしまうので違うドロサポに差し替える。」
というものがあります。
(現スタンだと妥当な差し替え先がないからあんまり聞かない話かも…一昔前にはシロナが居たのでそういう話題があったんです。本当に。)

もちろんこの判断が正しい事もあるのですが、「機会コスト対パフォーマンス」の思考を経ずにこの判断をするのは危険と言えるでしょう。

まず博士の研究のパフォーマンスについて考えてみましょう。
「7枚」という枚数は、(引く枚数であれ引いた後の手札の枚数であれ)ドローサポートの中では最高峰の枚数です。
これ以上の枚数を求める場合には、何かしらの条件がつきまといます。

最高峰のドロー枚数であるにも関わらず、博士の研究の使用条件は驚くほど緩いです。
盤面や手札の状況に関わらず使用でき、使用すれば必ず7枚引く事ができます。
手札で腐るという事がほとんど無いのです。
手札に来た博士の研究が腐る場面というのは、既に他のサポートを使用している(他にこの番に使いたいサポートがある)か、博士の研究自身を2枚以上引いてしまった場合くらいであり、これは他のドローサポートでも同様の事が発生します。

つまり博士の研究は、最もパフォーマンスの高いドローサポートと言えるでしょう。
その博士の研究を別のドローサポートに差し替えるという事は、相応の機会コストが発生します。
最高パフォーマンスのドローサポートから、2番目・3番目のパフォーマンスであるドローサポートへ差し替える事になるので、この時点ではただただ損をしている事になります。

この損失を、「カードを捨てなくなった事による利益」で取り戻せる場合にのみ、博士の研究を別のドローサポートに差し替えるという判断に正当性が生まれます。

先ほども述べたように、ポケモンカードはそもそもパフォーマンスの悪いカード(手札で腐りやすいカード)の塊です。
「博士の研究で捨てるカード」というのは、「博士の研究を使用するまでに使う事ができなかったカード」であり、問題は博士の研究ではなく捨てられる側のカードの低パフォーマンスさなのです。

つまり博士の研究を抜くよりも、捨てたくないカードのパフォーマンスを上げる(博士の研究を使用する前に使えるようにする)という方向に舵を切る事が効果的な事もあります。
進化ポケモンが捨てられる前に場に出れるよう、タネポケモンを安定して並べられるようにする、といった感じに。

シールド戦に学ぶ機会コスト論

少し話は変わりますが、シールド戦の事例も見てみましょう。
シールド戦でのデッキ構築において、カードの採用可否を決めるにあたり「基本エネルギーより強いか(基本エネルギーより弱いなら基本エネルギーを入れたほうが良い)」という判断基準があります。
通常の構築戦よりもドローが貧弱であり、(さらにはエネ加速手段も乏しいため、)ワザを使うためのエネルギーを毎ターン手張りする事の価値が高いが故に言われる理論ですね。
これはまさしく、「基本エネルギーを抜く機会コスト対入れるカードのパフォーマンス」の話なのです。

そして通常のデッキ構築においても、本質的にやる事は変わらないのです。
シールド戦では「パックから出たカード」というごく狭いカードプールの各カードに対して「このカードはデッキに入れるに値するか」という判断をします。
通常のデッキ構築でもやる事は同じで、ただシールド戦よりも少々カードプールが広いだけなのです。
そして大切なのは、「既にデッキに入っているカードと比較する」という視点を意識する事なのです。

まとめ

機会コストという概念について長々と書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
なんだか小難しく感じたかもしれませんが、言っている事は
「デッキに何かを入れるには、何かを抜く必要がある」
「入れたカードが抜いたカードより弱ければ、そのデッキは弱くなる」

というごく当たり前の話なのです。
ごく当たり前の話なのですが、その「当たり前」をより深く・具体的に理解しているというのは、大きな武器になるはずです。

次にデッキを組む(あるいは既存のデッキを調整する)時には、ぜひ「デッキにカードを入れるのはタダではない」という事を思い出してみてください。

だいたいMTGの記事
英語記事もあるけどDeepL翻訳に突っ込めば8割読める。

THE VALUE OF A CARD
MTG公式記事による機会コストの解説。
ドラフトの話ではあるけど本質は通常のデッキ構築も同じ。
曰く「弱いカードを採用する時に問題となるのは、弱いカードそのものではなく、それを入れるために他の強いカードが抜けるという点である」とのこと。

Brewer’s Minute: Opportunity Cost in Deck Building
MTG。具体的なデッキとカードを用いた機会コストの解説。
デッキに採用したくなるカードはあれども、それは本当に既存のカードよりベストだろうか?という話

表面的なサイドボーディングの危険性と機会費用
MTG。僕が機会コストを知るきっかけとなった記事。
サイドボーディングの話ですが、曰く「サイドボーディングとはデッキ構築」であるため、デッキ構築を考える上でも為になる記事。

ポケカのエネルギーとか進化とかだいぶヤバいゲームシステムをアルセウスVSTARがどうにかしてくれる話
ポケカ。中盤で書いた「ポケカってそもそも…」のほぼ元ネタ。
ポケカのゲームシステムのヤバさについてもっと詳しく書かれています。