キハダ先生の横で水道水のみたい。
はじめに
3月初旬。SNSを見る限り、強化拡張パック『トリプレットビート』のリストをみたプレイヤーの評価は悲惨でした。
「めぼしいカードがない」「味がうすい」「買う意味がない」などの言葉が並び、私としても同じ感想でした。
3/16日現在、発売してからもリストに対する評価は変わりません。むしろ全く予想を裏切られていません。
各地のシティリーグの結果を見ても、新カードがメインで採用されているデッキはほぼ無く、あったとしてもジェットエネルギーが既存のデッキの足回りを僅かに強化した程度です。
発売前の予想と違わないことが現実となっています。一部のレアの価格を除いては…。
相場とは神の見えざる手なので考察しても仕方がないとして、ひとまず『トリプレットビート』が売れ残りすぎてポケカ終了のような雰囲気になることは避けられました。(そうはならないとは思っていたが)この点はポジティブに捉えましょう。
一方で、カードが使われていないのはなぜなのでしょうか。だって使われるカードを作ったほうが、購買意欲が高まってたくさん売れるんじゃないですか?
この点に関して考えていきたいと思います。
我々はこのようなできごとを実はこれまでに2度体験しています。
2017年発売、サン&ムーンシリーズの1.5個めのエキスパンション 『強化拡張パック サン&ムーン』(名前どうにかならんかったんかい)と、2020年発売、ソード&シールドシリーズの1.5個めのエキスパンション 『VMAXライジング』(調べるまで名前忘れてた)です。
なぜ2個めではなく「1.5個め」なのかというと、エキスパンションナンバー(正式名称違ったらごめん)が「SM1+」「s1a」「sv1a」となっており、一弾の強化拡張という位置づけになっているからです。数だと2個めなんですが(3個めとも言う)便宜上1.5個めとして扱います。
後述しますが、この2つのエキスパンションも出た当初はかなり人気がありませんでした。特に『強化拡張パック サン&ムーン』に関しては、「そんなに叩かなくても…」とおもうくらい、プレイヤーからは不満の声が上がっていた記憶があります。
同じタイミングで3年おきにでた、この「1.5個め」というパックは、どうしてプレイヤーからは人気のないパックになってしまうのでしょう。
3回同じことが続いたからには、何か理由があるはずです。
そして、過去にあった2つのパックのカードがたどった運命は、今回の「トリプレットビート」にあてはまることも多いのではないでしょうか。
3つのパックが出た直後の状況を比較して考察していきます。
過去を知ることは未来を知ること。まさにコライドンとミライドンですね。違うか。
『強化拡張パック サン&ムーン』とは
2017年1月27日(金)に、強化拡張パック「サン&ムーン」が発売! この商品には、 「ポケモンカードゲーム サン&ムーン」シリーズのカードで作るデッキを、さらに強くするためのカードが入っています。
※公式サイトより引用。
強化拡張の名に恥じず、なんと51枚のコレクションナンバーのうち30枚以上が再録カード。 えぇ!?
今では考えられないパックです。逆に言えば、15枚前後しか新規テキストが入っていないことになります。
しかも、直近収録されたばかりのカードだったため、毎回カードを集めているプレイヤーにとってはほとんどパックを買ううま味のないエキスパンションでした。
あれ、トリプレットビートと似ていますね。
めぼしい収録カードを見てみると、
ポケモンGX:ジュナイパーGX(再録)、ガオガエンGX(再録)、アシレーヌGX(再録)、ジジーロンGX、ニンフィアGX
ポケモン:オドリドリ(バイタルダンス)、オドリドリ(あやかしのまい)、ウソッキー(みちをふさぐ)、イーブイ(エナジーしんか)(再録)
トレーナーズ:マルチつけかえ、こだわりハチマキ、日輪の祭壇、月輪の祭壇、改造ハンマー(再録)、まんたんのくすり(再録)
当時を知っている方は「あー、こんな感じだったなあ」と思ったのではないでしょうか。
当時強かった「よるのこうしん」の対策になるオドリドリや、「白レック」「Mサナ」の対策になるウソッキーなどはすぐにデッキに採用されていましたが、環境を変えるアーキタイプは出ることがありませんでした、
あれ、ジェットエネルギーしか採用されないトリプレットビートと似ていますね。
ちょっとまて、ジジーロンGXもニンフィアGXもめちゃくちゃ強いアーキタイプが出たじゃないか、と思ったそこのあなた。鋭いですね。
たしかにおっしゃる通りです。ほぼ環境の中心になるデッキが、このあとしばらくして生まれます。
ニンフィアが環境を制したのはこのあと1か月後のチャンピオンズリーグ大阪。秘密裏に開発されたニンフィアが一般プレイヤーに流行りだしたのはまたそのあとです。
参考→【特集・ニンフィアLO】part.1
ジジーロンに関してはもちろん使用プレイヤーは多かったですが、ダークライEXやボーマンダEX等と組み合わせた形が確立してきたのももう少しあと、「ジジダスト」に関してはもちろんSM2以降です。(まちがってたらすみません)
つまり一言でいうと、出た当初はほぼメタゲームへの影響がなかったパックであるということが言えます。
『VMAXライジング』とは
ゴリランダー、エースバーン、インテレオンの3匹がポケモンVMAXとして登場する、強化拡張パック「VMAXライジング」が2月7日(金)に発売!
※公式サイトより引用。
こちらも、顔ぶれはほかの1.5個めのエキスパンションと同様、ガラル地方の序盤~中盤で出会うポケモンが多く収録されています。
コレクションナンバーは70種と、サン&ムーンよりは多いですね。
『強化拡張パックサン&ムーン』と違うところとしては、スターターは2進化での御三家ラインの収録なのに対して、『VMAXライジング』は新ロジックの「V・VMAX」となったため再録は基本的にないことです。
『強化拡張パックサン&ムーン』が不評だった影響も多少あるのではないかと推測できます。
めぼしい収録カードを見てみると、
ポケモンV:ゴリランダーVMAX、エースバーンVMAX、インテレオンVMAX、パルスワンV、サダイジャV、バイウールーV
ポケモン:特に目立ったカードなし
トレーナーズ:フウロ、ソニア、トレーニングコート
となっております。めぼしい強力カードがほとんどないですね。
このあと1ヶ月後くらいに緊急事態宣言が出て大会がすべてなくなるので、環境考察が進んでいなかったという見方もありますが、少なくとも2月中にVMAXライジングのカードが環境の中で注目されたことはほとんどなかったと記憶しております。せいぜいパルスワンVがピカゼクに採用されていたくらいで、レシリザ、ピカゼク、パーフェクションのような環境だったと思います。
※インテレオンVMAXが愛知準優勝したのはこの半年ほどあと
これは余談ですが、グズマが落ちてからボスの指令が収録されるまでのこの短い期間はかなり混沌としており、「モルペコドール」だったり「マグカルゴLO」といった、ベンチを呼ばれないからこそ成立するようなデッキが台頭してきた記憶があります。今思い出すと笑えますがあまり好きな環境ではありませんでしたね。
いずれにしろ、『VMAXライジング』も出た当初はほぼメタゲームへの影響がなかったパックであるということが言えます。
メタゲームに影響なさすぎるだろ
なさすぎるだろ!
対比としては、このあとに出る拡張パック第二弾SM2「キミを待つ島々」「アローラの月光」s2「反逆クラッシュ」はみんな大好き強力カード盛りだくさんで、メタゲームへの影響も大きい、というかデッキの作り方からひっくり返すようなエキスパンションでした。
おそらくこの後に出るSV2「ほにゃららほにゃにゃんじゃ」も強いんじゃないかと思います。
なぜ、こんな明らかに同じタイミングのエキスパンションで人気/不人気が偏るんでしょうか。
おかしいですよね。狙ってやってますよね?? わざわざメタゲームに影響ないように作ってますよね?
というわけで一つ目の考察は、「1.5個めのパックは何を意図して作られているのか」です。
強いカードが出ない、メタゲームに影響がないと、コアなプレイヤーは悲しいです。
私もプレイヤー目線で考えたときに「まだギラティナか…」「ミュウか…」「ルギアか…」「アルセウスか…」という思いになります。ポケモンファン目線で考えると、ソード&シールド・LEGENDSアルセウス時代のデッキはそろそろ退いていただいて、新ポケモンや新ギミック「ex」「テラスタル」などを存分に活躍させたい気持ちになります。
私自身もいろいろデッキを作っていますが、やはりパワーは抑えられているなと感じます。
キミ杯ベスト16でした!ありがとう😊 pic.twitter.com/ghunDoC4p9
— トイ@3/18かつた杯矢向 (@101pokeca) March 12, 2023
マスカーニャex(ほとんど既存のデッキ)
【ラウドボーンex/バーニングエコー】
ラウドボーンexのビーダルがあまりにも弱かったので、
エンテイV+ゲッコウガとシナジーのあるチルタリスを採用。
そしたらもう1枚のチルタリスもラウドボーンの回復+サブアタッカーというドンピシャ性能だった!!
ラウドボーンの歌とチルタリスの歌で芸術点💮♪ pic.twitter.com/u9YZB0a2Ew— トイ@3/18かつた杯矢向 (@101pokeca) March 14, 2023
ラウドボーンex(そんなに強くない)
パックが弱いと誰が喜ぶ?
では視点を変えて、メタゲームが変わらないと喜ぶ人は誰でしょうか。
答えは、「今もっているデッキでずっと遊び続けたい人」です。
ポケモンカードを始めて、せっかく頑張ってミライドンexを集めてデッキを組んだのに、2か月もしないうちに新しいデッキが登場して勝てなくなってしまった。
簡単にいってしまうとこういう案件を減らしたいのではないでしょうか。
なぜならシリーズが始まった直後、過去のレギュレーションが落ちた直後は新規のプレイヤーが入ってきやすいタイミングだからです。
昔、トイというイベントオーガナイザーが興味深いことを言っています。
構築済み以外のカードで主要パーツがSM1+が多いってことはね、
構築済みを買ってもらった子が、自分のお小遣いで少しずつ強化拡張を買って、
ハチマキとかまんたんとかオドリドリとか3枚目のガオガエンGXを当てるたびに少しずつデッキが強くなるってことなの!!— トイ@3/18かつた杯矢向 (@101pokeca) June 15, 2018
当時のなんらかの文脈のなかで書いたことだと思うので前半意味が分かりませんが、後半は「たしかに」と思えることを書いていて、要はこのSM1+だけでデッキを組む、というデザインではなくスターター※や拡張パック第一弾と混ぜて遊べるようにデザインされている、ということを主張しています。なるほど。
※現在のスタートデッキexのように、当時もジュナイパー/ガオガエン/アシレーヌのデッキが発売されました。
要は、強化拡張パックを「買わなくてはいけない状況」を避け、「買わなくてもいい」、もしくは「ちょっと買えばいい」という状況を意図的につくっているのが1.5個めのパックなのではないでしょうか。
当時は、あまりパックを買えない子どもへの救済という文脈で書いていますが、今のプレイヤー層を考えると1.5個めで救済される文脈は「経済状況」だけではありません。
「時間の負担」もライトユーザーにとっては大きな問題です。
熱度の高いTCGユーザーには想像しがたいかもしれませんが、ライトユーザーにとっては、「環境を理解する→自分でデッキを考えて組む」というアクションのハードルが思っているより高いです。
私自身も、デジカ、ワンピースなど新規のTCGを遊ぶ中で実感していることでもあります。
新しいカードゲームを遊んで「楽しい!」と思って遊んでも、毎回毎回新弾が出るたびに情報を入手し、カードをそろえ、デッキを組むという負担は、当然他の趣味があるほど大きくなってきます。
ポケカの市場が大きくなる中で、ヘビーなTCGユーザー以外もポケカに手を出す機会が増えているはずなので、そういったユーザーに向けて「このパックはそんなに買わなくても今持ってるデッキが強いからそのままで遊べるからね~~」ということを伝えたいように思えます。
なおかつ、過去の1.5個めような不満が既存ユーザーから出ないようにシールド戦もできるようにしといたよ~というデザインは、全方位を満足させようとした結果なのかなという見方もできます。
(『トリプレットビート』のシールド戦のゲーム性が物足りなく感じるのも、”後付け”のシールド戦だから。と考えると腑に落ちます。)
1.5個めのエキスパンションは、1個目のエキスパンションで新規参入したプレイヤーのTCG耐性に合わせてデザインされている。というのが今回の結論です。
※そもそも強化拡張パック自体が、大型の環境変化のタイミングを調整するデザインだという論旨は、過去にもロロたんぬ氏が書いています。
『トリプレットビート』はどうなるのか
最後に、ではトリプレットビートは既存プレイヤーにとっては買わなくてもいいパックなのかという問いへの回答です。
いろいろ考えましたが、「過去の例からはどちらとも言えない」という結論になります…。
『強化拡張パックサン&ムーン』では、ニンフィアGXというカードがすぐあとに環境の中心になり、当時はパックの流通も少なかったことからしばらくして価格が高騰しました。
こだわりハチマキも、このあとSM2、SM3と環境が遷移するなかで必須カードとなり、需要が高まったと記憶しています。
それを踏まえると一部の強カードは今、パックが市販されている(されてないけど)タイミングで買うべきだとも言えます。
今回で言うと、マスカーニャexでしょうか。
一方、『VMAXライジング』では「トレーニングコート」というカードが徐々に評価を上げ、特に「トキワの森」のレギュ落ち以降様々なデッキに採用され、需要が上がりました。
しかし、その時にはすでにハイクラスパック、プレミアムトレーナーズボックスで再録がされており、そこまでの価格高騰にはなりませんでした。(合計3回再録)
もし再録がなかったら「ガラル鉱山」以上の入手困難なカードになっていたかもしれませんね。
つまり、最近の商品デザインでは、入手困難な過去のカードは積極的に再録を行い、プレイヤーに行きわたるような配慮が見られます。
「買わなくていいよ」に対する責任をとっているのかもしれません。
今回で言うと、ジェットエネルギーやボウルタウンがそれにあたりますが、必須カードとなればほぼ確実に再録をしてくれるだろうという安心感があります。
まとめると以下のようになります。
ポケカをまんべんなく楽しみたい人:パックを買っていろんなカードで好きなデッキを組んでたくさん遊ぼう!!(トイ主観増し増し)
競技プレイヤー:必要になったらシングルで買えばいいと思う
ポケカ投資家:たいあたりジムなんか読んでる暇があったらポケカ投資家noteを買おう!!
おわりに
やはり自分が制作側だったら、と考えるとすべての商品をヘビーユーザー向けには作らないと思います。
たまにライトユーザーと接してみたり、逆に自分が別の趣味のライトユーザーになったりすると、見えてくるものがあるかもしれませんね。
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